2011年1月29日土曜日

食を拓く:手さぐりの地域ブランド戦略/3 つくばパン /茨城

 ◇農業と科学の夢乗せて
 つくば市中心部から少し離れたパン屋「モルゲン」は、淡い黄色の洋風の店構えが目を引く市内の人気店だ。「パン屋からすれば夢のようなすてきな話ですよ」。甘く香ばしいにおいが漂う店内で、パン職人の菊地満店長(55)は温和な笑顔を見せる。菊地さんが言う「夢」のパンは店頭に並んでいた。つくばの研究機関で生まれ、市内で栽培された新品種のパン専用小麦「ユメシホウ」を使った商品だ。
 つくば市では地元商工会が中心となり、つくばエクスプレス(TX)開業前年の04年から「パンの街つくばプロジェクト」と銘打った事業が進められている。市内のパン屋で地元食材を使った共通商品などを売る試みで、モルゲンも当初からの協力店の一つ。ユメシホウは、事業の将来を左右する鍵を握る。
 ユメシホウを生んだ農研機構?作物研究所では、事業が始まる前の90年代後半からパンづくりに必要なたんぱく質「グルテン」を多く含む関東?東海地区向けの小麦の育種を続けていた。製粉用小麦の中でパン用小麦は最も需要が高いが、国内自給率は1%未満。それも北海道産が多くを占め、関東で栽培できる粘り気の強い高品質のパン用小麦の品種開発は悲願とされてきた。研究を活用したまちづくり提案に対し、10年越しで育種に携わった乙部千雅子上席研究員は「新品種普及の好機」ととらえる。「つくばは最初に花開いてほしい場所。ここから『夢』が『四方』に広がってほしい」と品種名の由来に新たな意義を込める。
 プロ
ジェクトを提案したつくば市商工会は当初、外国人住民が多いという国際的なイメージを売り出す狙いで「パンの街」構想を先に打ち上げ、基盤づくりを急いでいた。事業発足と前後して作物研究所の取り組みを知り、担当する浅野和男?指導部長(55)は「科学のまちならではの取り組みになる」と直感。すぐに関係各所と折衝し、市内でユメシホウを生産する足がかりを作った。育種が失敗した時の「保険」として始めた旬の地元食材を入れたパンも予想以上にヒットし、地元食材に対する消費者の意識の高さを確信した。
 結局、ユメシホウは事業開始から3年後の07年秋に品種登録された。今年度の栽培面積は5ヘクタールで、約15トンの小麦粉になる。全量を商工会が買い取り、希望するパン屋に安価で提供する。ユメシホウを使って焼いたパンは市内の学校給食にも出された。増産と安定価格での供給が課題となる中で、市内に広がる耕作放棄地を使った生産拡大も検討している。
 農業と科学技術はつくばを形作る基幹産業。浅野さんは、両方の要素を併せ持ったユメシホウで「首都圏で勝ち抜くための付加価値を勝ち取りたい」と言う。そのため、アピール層を70年代の研究学園都市開発以降に移住した「新住民」と、TXと並行した住宅開発で呼び込んだ「新々住民」に絞る考えだ。「県内で人口が増えている数少ない地域。洗練されたイメージを打ち出し、つくばに住んでみたいと思ってもらえるようなPRを続けたい」=つづく

3月28日朝刊


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引用元:リネージュ3(Lineage3) 総合情報サイト